ジョブ型雇用は目標管理の在り方も変化させることになってきます。その特徴として、専門性の高さとコミュニケーション力の二軸による評価システムが普及してくることでしょう。専門性はプロ意識ということとスキル能力の二軸がありますが、そうすると目標管理において専門性×コミュニケーション力×プロ意識×スキル能力という4つのマトリクスが設定できます。つまり、これらの4つの領域における有能性が問われるわけです。
このような視点からすると、それぞれの個別の能力を向上させる研修よりも、もっと相乗効果を生むようなワークスペース・ラーニングが求められるといえます。ワークスペースという意味は”職場”という狭い意味ではなく、勤務の状況全体の中での人を成長させる構造や道具や仕組みのことです。そうした人工物のトータルな環境と人(主体)との相互の影響が何かを理解することがワークスペース・ラーニングの意図するものなのです。「能力の媒介性」について石黒広昭は次のように述べています。
『ヴィゴツキーは二種類の道具を区別する。一つは物や構造やシステムを作り出す技術的な道具(technological tool)であり。もう一つが記号や言語のような心理学的道具(psychological tool)である。媒介活動の重要性は、それが人間を対象世界に結びつけると同時に他の人々とも関係づけることにある。』(『心理学と教育実践の間で』(東京大学出版)p119)
つまり、石黒がいうように知識が媒介的なものであるとすれば学校教育が前提としてきたテストによる評価行為も大きく変える必要に迫られます。それについて、続けて石黒は次のように述べています。
『そうなると、学校教育においても道具媒介活動は当然視されなくてはならないし、子どもたちが積極的に多様な資源を用いることができるような活動の場を組織することこそが必要になってくる。』(同著p119)
『具体的な行為が起きた文脈が剥奪されるのと同時に、別な文脈が与えられるのである。その意味で、脱文脈化とは文脈の変更である。その変更される先にある文脈は「特権化」(Wertsch,1991)された文脈である。』(同著p120)
こうしたことからすると、目標の設定とは何かという問題意識は次のように言い換えることができます。
「目標の設定とは、自らの状況(組織)の中で求められる能力を先取りして行動していくための心理的リソースである」
こうした状況認知的な発想は当然ながら具体的な面でどう利用ができるのか、という応用面での問いが生まれてきます。目標の意識的なレベルでの分類としては次のような3つの形態が仮定できます。
1:MUST=「しなければならない」という義務的な意識
2:WANT=「したい」という自らの自律的な欲求を持つ意識
3:WILL=「するだろう」という未来への自然な動きとしての意識
3つのレベルは、組織における理念などを考えるときには発達段階を想定することもできるでしょう。この場合、MUST⇒WILL⇒WANT という段階で理念を自らの意識に取り込んでいくと考えることができます。最初はどうしても外在的な義務的なものとなり、それが習慣化されるにつれて自然な行動に移り、さらに自らのミッションといった欲求レベルにまで発展していくといったプロセスです。
このような発達段階のプロセスは、理念の発展性を意味づけると同時に個人がいかにして組織のエンゲージメントを高め一体となった目標観を持てるようになるかを示すものです。ただし、注意しなくてはならないのは発達段階は一般化されたものであり、理念自体の意味づけやそのプロセスはかなり幅があるとみなくてはなりません。理念自体がいかに良いものであっても、その価値観なりを自らの共感と重ねるのは当人の考え方やスキーマという認識の枠組みに関わってくるからです。