エンゲストロームの活動理論の特徴はfig1の三角モデル図に表されるものです。主体(当人)が何かを目指して”活動”する際に、その活動の“媒体”(言語・道具・仕組みを含む)との相互作用に注目するものです。この三角モデルの底辺にあるルール、コミュニティ、分業(役割)の三つの要因は、社会的な相互作用により主体や目的に変化(発展)を生み出します。
たとえば、学生が塾で講師をしたときは教えようとする目的意識が生まれ、そこに「教育モード」が当てはまることになります。それは大学内での学ぶモードとは異なり、行動基準となるルールや分業(役割)も塾コミュニティに即したものとなります。とくに心理や認知レベルで重要なことは役割の違いと合わせて、“目的”(意図)も変わるということです。
こうした目的(意図)の談話分析ではバフチンのジャンル説(北岡誠司1998)が知られるが、本稿では談話の認知プロセスを重視するため、心理学の用語として「モード」とその下位概念となる「フレーム」というカテゴリを独自に使用します。それらは談話を構成していく「期待の構造」(structure of expectation)(Tannen1993)や談話の「メンタルモデル」(Dijk2014)の概念と重なるものです。