マネジメント心理(4):ドラッカーの”実践知”説

■ビジネス心理に「実践知」とは?

ビジネスの現場で学ぶ知識は、あっちを立てればこっちが立たないようなトレードオフ関係にある問題がほとんどです。経営者はとくにこの種の問題を利益優先か顧客サービス優先かなど、悩みながら日々の仕事に追われています。

このようなビジネスの在り方について、ドラッカーは”戦略”を立てフォーカスする目標管理(MBO)が重要だと説くわけですが、ビジネス心理の視点からみるとそう簡単なものではありません。

仕事をする人には、常に矛盾とその解決をめぐる”葛藤”があり、それを解消したいと望む”達成欲求”や”自尊欲求”が働いています。こうした欲求は根源的なもので、自分が一環した自己でありたいという「自己像」(アイデンティティ)に根ざしています。

もちろん、このこと自体は悪いことではなくむしろ良いことですが、少し間違うと自尊心を守るための「自己正当化」の要因にもなるものです。

重要なことは現場の矛盾した問題を解決するためには自己を振り返る(リフレクション)だけではなく、ときに自己否定を繰り返していく”勇気”が必要であることです。この 勇気は勇ましいという意味ではなく、より高い位置から自己を見直し(メタ認知)、適切なものへと改善していくことができる意思を指すものです。

よくあるのは会議をすると非難はしても自分もそれに責任を持っていることを忘れてしまっていることです。様々な理由をつけて実践しない”傍観者”になることによって、自己正当化してしまうわけです。こうした人は新たな変革に向けて自己否定をする”勇気”がないだけでなく、その自己の行動しない理由を探そうと努力しています。

自己正当化は現実の中にある矛盾した関係を理解する機会を奪い、本質的な問題から自己を引き離してしまいます。それを超えざるを得ないような場面に立たされるたとき、そこに初めて「一皮むける経験」(※金井)のようなことが起きるのです。

ドラッカーは自らの学びをこうした矛盾の絶頂のときに、それをチャンスとして捉えて集中的に学ぶように実践してきたと自伝の中で語っています。 現在自分が関心のあるテーマに、まずは3か月ほど集中して学ぶというやり方です。

そのときこそが学ぶ動機と学ぶ意味を実感でき、問題意識が高まるからです。 そこに学問上の境界線はありません。現実の矛盾をどう解決したらよいか、これはコンサルタントという職業からしても不可欠なことだったのです。

その意味で、ドラッカー自身も矛盾した状態の中でもがき苦しみながらも 、より本質的な解決の道を探ろうとする「勇気」を試されていたと考えられるのです。
逃げることで自己正当化するのではなく、あるがままの弱い自己と向き合いながら、 それを克服する努力(レジリエンス)を学ぶ行動で解決しようと試みてきたといえるのではないでしょうか。

【執筆:匠英一】

 

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