■「期待マネジメント」が創り出す「顧客満足」
ここではクレーム客への対応の視点から顧客満足度(CS)と顧客の「期待」について考えてみましょう。
ドラッカーはコミュニケーションの前提として「期待」について次のように述べています。
「受け手が期待しているものを知ることなく、コミュニケーションを行うことはできない。期待を知って、初めてその期待を利用できる。あるいは、受け手の期待を破壊し、予期せぬことが起こりつつあることを強引に認めさせるためのショックの必要を知る。」
たとえば、同じクレーム客でも、きちんと対応をすることによって「自分の期待以上にここの会社はよくやってくれた。ここの会社は良い会社だ」と逆にロイヤル顧客になるケースが5%あることがわかっています。 一方で対応を誤れば、悪い噂を撒き散らす「キラー客」となり、その企業にとって甚大な損失を与えます。
ある日曜のときのこと、中年サラリーマンの田中さん(仮称)が家の近くのスーパーへ行き、レジに並んでいたときのことです。田中さんの前の客には店員がナイロン袋に詰めていたのが、彼の順番になったときには、ただ袋を渡されただけったのです。 田中さんにすればおもしろくありません。 そこで彼は、「後ろに客が並んでいるわけでもないのに、これはどういうことか」と強い口調で店員に問いました。
店員は「袋詰めは当店ではセルフが基本でして・・・」と説明はするのですが、田中さんからすれば納得できません。前にいた客は同じような年齢の中年の背広姿の人でしたが、田中さんはそのとき短パンの少し汚れた服だったのです。そこで、客の姿からなんとなく差別をしていたように感じたのかもしれませんが、怒りはおさまりません。
田中さんはレジの途中で買い物を辞めてしまい、何も買うことなく店員への怒りのコトバを投げつけながら帰ってしまったのでした。
おそらく、店員はその紳士客へのちょっとした気遣いから袋詰めをしたと考えられます。これは好意であって義務ではないことも確かです。問題はその行動自体の是非ではなく、それが他の客にどういう印象や感情を生むか、その状況を考えなかったことでした。
こうしたサービスにおける顧客対応の問題は常にどこでも起きがちな事です。これは一見すると極端にみえますが、実は至るところで同様な「ガンバル仕事人」の勘違いがみられるのです。
この場合、店員からすると好意としてのプラス行動をしただけであって、悪く言われる筋のものではないと思っていたかもしれません。それは、そのとおりでしょう。店員の心の内側では、顧客にイイことをしているわけだからです。良心的な店員であることを自分の信条にしていたのかもしれません。ただし、その“良心的”なことをする相手が友人でなく、“顧客”であることを忘れてしまっています。そこが問題なのです。
再度、ここで「顧客満足」とは何だったかを振り返ると、満足を生み出すものは固定した形のものではないということでした。それはサービス側が顧客にする「期待マネジメント」によって創られるものだからです。そして、この「期待マネジメント」が心理学を顧客満足度を向上させる方法を考えるときに中核になる概念なのです。
【執筆:匠英一】