構成概念としての心理の”力”
コーチング心理を理論として整理するうえで、人が心を理解するのは目に見えないものであるがゆえに、どうしても主観的なあいまい性が残るものになりがちです。そこにどんな働き(機能)や効果があるのかは外側に出てくる行動や結果としての成果物でしか評価できません。それゆえ、私たちの日常では「・・力」といった力を軸にしたコトバで表現されることが多いのです。
こうしたコトバによる表記の仕方は「構成概念」とよびます。これは理解が容易になる反面として単純化しすぎたり、複数の要因が含まれているのを無視してしまったりする誤りが起きやすい問題があります。
「意志力」もそうした構成概念のひとつだですが、この概念を形成する要因としてどんなものがあるか、ここで整理しておきましょう。
1)継続した行動を伴うものであること
2)一定レベルの努力を必要とするものであること
3)目的への一貫性を持つ行動であること
つまり、意志力はこの3つの働きで構成された力を合わせた概念なのです。そこから、もし研修などで学習させるようなことを考えるなら、どんな内容がふさわしいかが見えてきます。
たとえば、1番の継続行動については習慣との関係がテーマになります。どうやって良い習慣を増やすようにするかです。2番であれば、努力をするエンジンとなるもの、モチベーションの在り方が問われるわけです。やる気とモチベーションの違いを理解することや、怒りや希望といった感情がどうモチベーションを増幅させるか等のテーマが重要なのです。
そして、3番目は目的という内容そのものの価値や意義づけに関わることがテーマになります。これはミッションの意識を持ったり、どんな意味をそこに見出すかが問われることになるでしょう。
このような3つの課題は、それぞれが深い内容であるために互いに関連がある形で意志力として働くと考えられます。
しかし、研修など目的の明確な教育の場では、絞ったテーマで実践できるようにしないと焼石に水のような話になってしまいがちです。とくに、最近よくあるファシリテーション型研修や、振り返り型研修など現場での課題を反省させる教育手法は注意しなくてはなりません。
講師が“型”をはめた形で行うパターンが多く、カードでまとめたり討論をするのですが、カード依存の思考に陥っていることに気づいていないからです。声に出して互いの気持ちや思いを“語る”プロセスの意味がわかっていないのです。
そのため、カードに書かれた文字が場当たり的な内容であっても、研修中はそれに引きづられたまま終わってしまいます。それは本来、その場にいる参加者同士が互いの声を交流しながら、新しい視点や考えを取り込んでいくプロセスであるはずです。にもかかわらず、カードが主体になってしまい、ゲーム感覚の遊びでそれを絵的な形にまとめたりする「操作思考」に終始してしまうっている例がたくさんあります。
本来、カードなどは川喜多次郎(筑波大学名誉教授)が開発したKJ法がもっとも知られるもですが、カード活用が深く考える場にならずに、書くという作業によって何かを達成した気分になって、互いに意見を交換したように思い込んでしまう。あるいは、こうした過去の例で感想程度の中身を、カードに書き出して終わる程度のものも多いからです。
【執筆:匠英一】