成人の発達心理学を考える(1):「貢献心」の新たな見方へ

「貢献心」はドラッカーやアドラーが重視していた人の社会性を示す心理の核となる概念です。アドラーが提唱した「共同体感覚」はよく知られますが、その”共同体”という内容が学校や企業、地域集団など多様な形態があり、そこに互いの連帯や絆の心理が伴うものです。日本という国レベルであれば、海外の国々との違いを意識することにもなり、国家という意識がベースになります。また、それは顏がみえないような抽象的な社会への信頼に近いようなものでもあり説明が難しいものです。
いずれにしても、「貢献心」とは一般的には現実の社会をよくしていくために自分の狭い利益を犠牲にし、より高い価値の実現に意義を見出すものだといえます。そうした感情・思考の在り方はアドラーの「共同体感覚」も含まれ、人と人を結びつける価値の実現をめざすものだと仮定できるでしょう。
そうすると、他者や社会の存在が対象であると同時に、その関係性が信頼や絆感を伴うものとして理解できます。ただし、このアドラーの共同体感覚が明確なものといえないために、実践上において役に立つ考え方であって科学的な根拠をさらに求める必要があります。
そこで、貢献心には二つの矛盾した構成要素があると考える必要があります。ひとつは、自分の感謝されたい欲求(承認欲求)があるということです。認められたい、尊敬されたいという欲求は社会的なもので自然なもので、その中には“自尊心”も含まれているとみなせます。他方で、真理や普遍的な価値を求めるような「真実性欲求」をここで仮定することができます。
真実性とは社会や自然の中での進歩的な価値を示すものであり、それは普遍的な内容を持つものであり、個人単位で変わるようなものではないものです。それ自体が人間や当人にとっての価値を持つと同時に、社会そのものにも役に立つような「愛」や「正義」に近い概念です。神という存在をそこに想定するのは宗教家ですが、自然や社会の在るべき何かを示すものと仮定することもできます。これらは哲学や自然科学が求めてきたものでしょう。
貢献心がこのような利己的なものと普遍的なものに分けるなら、どちらが優れているかが問われるようにもなりますが、ここでは両面性を持つものとして仮定しておきます。そして、貢献心は共同体感覚が土台となり、その上に承認欲求と真実性欲求が成立するような構造を持つと考えるのです。前者の承認欲求はマズローの欲求説にも説明されている概念ですが、真実性欲求は社会的な価値実現のようなことですので第五段階の自己実現欲求のものか、さらにその上の第六段階の欲求とみなせるでしょう。

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