人類学者のE・ヴェンガーらが述べた 「実践コミュニティ」とは何か。
それはトキワ荘のような漫画家らの専門性をお互いに高め合うようなコミュニティの例にみられる成長・発達の場であることです。トキワ荘では手塚治虫を筆頭に石ノ森章太郎など多くの漫画家を出しています。その場の力とは何だったのかを分析してみると、次のような特徴をあげることができます。
1:漫画を通じた個性の本音のぶつかり合い
⇒自分のワザへの誇りと成長欲求の構築
※本音のぶつかり合いはオーセンティック学習論の要でもあり、自分と他者の作品などを比較する中で個性自体を伸ばしていったといえる。
2:実践コミュニティの複合的な連携を促す”生態系”の協調活動
⇒プロとアマチュアの相互浸透的な関係があることによって、めざすべき理想モデルが初心者段階から描けてキャリア発達観が創ることができた。そこにはマンガをプロとして仕事にしようとする実践家集団の”生態系”の場がありました。
3:実績を記録化しストーリ化する知のポートフォリオ化
⇒ポートフォリオのように実践的な場の成果物や仕事のプロセスをアーカイブ(蓄積物)として記録化し、さらにそれを他者と共有していく仕組みが構築されたこと。
3番目のポートフォリオ化に関しては多様なメディアや出版社側のサポートなど紙文化的な面と同時にアニメ化に向けたデジタルな面の二つの構造があったと考えられます。しかも、デジタル化は紙文化を凌駕していくというマイナス面もありながら、同時に互いが補完し合えるような関係も生み出していたことも重要です。アニメが鉄腕アトムという形でヒットすることで手塚治虫の世界は紙媒体を越えた人気を生んだからです。
その一方では、紙媒体のマンガ雑誌は週刊号で大量のファンを作り出していきます。それが蓄積されることでさらに多くのファンの層となる厚いマンガ世界を創っていきました。
詳しいトキワ荘のレポートは雑誌『芸術新潮』2020年11月号:特集[トキワ荘と日本マンガの夜明け]を参考にするとよいでしょう。