心理系の書物では、心理の〇〇原理を使えば望む現実に変わるといった解説よくされています。もちろん、現実がそのとおりいくわけではないのですが、個人生活やスポーツの例を出して効果などの例にあげています。しかし、いざビジネスの現場で役に立つかどうか、ここに「組織」の問題があります。
私たちは空白の中で生きているのではなく、“ビジネス”という実践の場にいます。そこは空白ではなく、心理に影響する“リソース”や“制約”にあふれています。営業が個人でやるのとチームでやるのではまったく効果も変わるのと同様です。その場に存在するモノ(人)全てが私たちの思考・行動に影響を与えているからです。その事実に注目するのが「心の科学」でありその応用分野としての「ビジネス心理学」です。
ここでは、「アクティビティ理論」(Y・エンゲストローム)から組織改革の事例を検討してみましょう。
ビジネスの相互作用の場にある道具や仕組みを「媒介」と定義しておきます。としながら、直面する問題を解決し、人と組織の新しい仕組み作りをどう進めるのかがアクティビティ理論では問われます。
そこで、現場でアクティビティ理論を応用した事例を分析してみましょう。店舗でのレジでPOS機会を開発販売するサトー社では、三行で毎日社員が提案する仕組み(※「三行提報」と称する)を通して、革新的な経営を生み出しました。
ここで注意したいのは、ツイッターの無い20年以上も前から経営者と社員全員の知識共有の仕組みが実践されてきたことです。三行の文字数であっても、それが社員の気づき情報として毎日社長が読む仕組みになっていた点、そこにどんな意義があったのかです。
三行の文字で情報共有するこの仕組みは、社員が毎日ここを改善したいとか、この商品企画などの気づき情報をトップに提案する“媒体”となっています。それを示したアクティビティ理論の三角モデルが上図であり、社員能力、目標、企業文化、組織体制、業務プロセス(役割)といった各要因の相互作用の在り方がわかります。この仕組みを媒介したコミュニケーションを長年とり続けてきた結果、仕事の悪い点も良い点も何でも提案する文化装置となり、社員は経営トップにも躊躇せずに意見を交わせるようになりました。また、そこから理念でもあるイノベーションが仕組みで保証されることにもなり、より実効レベルが上がる相乗効果を生んだといえます。