イノベーション心理学は創造性心理学とどう違うのでしょうか。そのテーマの違いはイノベーションの「革新性」という面と「商業性」と関係してきます。ビジネスへの応用を考えるとき、この二つの概念を定義しておくことが必要です。
ビジネス分野での「革新性」とは最初から独創性を求めるものではなく、すでに既存にあるモノをいかに目的に応じて組み合わせるか、その新さにあります。技術的な革新性の多くは異なる既存の技術を組わせて機能の新しさを生み出し、結果として革新的な商品になっているといえます。アップルのジョブスCEOが生んだスマホはその典型的な商品です。
また、「商業性」とはここで定義する造語であり、売り方や市場の展開の仕方の独創的な面を意味しています。それはモノを売れる形にして普及させていく過程全体を意味するものです。これはマーケティング的な活動領域での独創性ともいえるでしょう。
この二つは切り離されてはビジネスでは成功できませんが、イノベーションを現実の力にしていくのは「商業性」がより重要になってきています。その理由はモノからサービスという見えない価値を形にしていくビジネスモデルの在り方にあります。
そして、こうしたイノベーションを推進していく人材が求められるわけですが、その人材とはどういう人なのでしょうか。それが「タレント」だとするのが、酒井崇男著『「タレント」の時代』に述べられたものです。
酒井は設計情報を産み出せる人材こそ「タレント」なのだというのです。ここではそのタレントを「商業性を持つ能力」と定義しておきます。シリコンバレーやグーグル社がイノベーションで成功しているのは、このタレントを育み成長させる仕組みがあるからだといえます。とくにグーグルの優れた人材採用の方法は、個人で採用する方式ではなく、創立したベンチャーのトップを買収で獲得し企業メンバーを含めたタレント集団の獲得だと述べています。
つまり、グーグルの成長はそうしたタレント集団の獲得をベンチャー買収の形でおこなってきたのであって、人材採用を個人の”資質”レベルで考えているのではないことなのです。興味深いのは創業者を狙った企業単位の買収であること。それは実践コミュニティである企業という組織に注目しているという点に斬新さがあります。グーグルは他社が追随できないほどの人材獲得費用を企業買収でおこなっていたのです。
日本の大手企業にこのような発想はほとんどないし、またあったとしても継続できるほどの資金のある会社など限られているでしょう。ソフトバンクが唯一それに近い会社かもしれませんが、それは創業者の特異なタレントだからこそできたのかもしれません。