■マネジメント心理(1):ドラッカーの”強み”説
ドラッカーは強みにフォーカスした戦略や経営の在り方を強調します。
強みと弱みは常に一体と思っておく必要があるのですが、ここは「強み」をより一般的な能力概念として強調しているところです。
注意したいのは、強みを狭い能力要因に還元しているのではなく、あくまで個性を伴うその人らしい一般特性としての強みであることです。それと合わせて「組織」という単位を強調し、組織の存在が強みが弱みを無にすると言っていることです。
人の能力や成長をはかる戦略としての強み論は、たとえば、「学習力」が強みだという場合がそれに相当します。このときに、学習力の下位のレベルの「速読力」といったものを強みだとした場合、これは学ぶという活動全体の一部であるため、熟読できる力を欠くという弱みとう裏腹にある能力かもしれません。
あるいは、速読は技能としては評価できるにしてもその分野が小説などの軽い読み物である場合、逆に哲学や経済等の硬い読み物を敬遠している弱みになっているかもしれません。
つまり、強みを弱みにする「条件」とはひとつにはそのカテゴリーの”範囲”が重要だということです。狭く限定されたカテゴリーでは現実の活動において、制約や範囲が限定されてしまうためパフォーマンスが期待された形では外化されないのです。ここに一般的な強み論の脆さと問題点があります。
強みにフォーカスするというドラッカーの説は、組織的な活動の中でこそそれが正しく妥当性を持つことに注意しなくてはなりません。どうしても我々は心や能力の在り方を「個人の中」に見てしまいがちだからです。
組織は人の”組み合わせ”によって成立するものです。そこに1+1=3になるような相乗効果が働くからです。マイナスをプラスにはできなくても”無”することができるのは、そうした個人内ではなく組織内のことだということです。
問題なのは、こうしたビジネス書にありがちな「強み説」の”単純化”です。 いかにも科学的と称しているところに問題があります。それをカモフラージュするため、海外の有名人に接触し、ペアになった写真を撮って自分がその人と懇意であるかのように見せたり、日本に招待したりして後光効果をねらった見栄えに努力している姿がよくみらます。
一方では、こうした強み弱みの本質的な理解を妨げてしまう受け狙いメソッドがもてはやされています。とくに自称ポジティブ心理学の”オピニオンリーダー”と称する一部の研修講師にありがちなのですが・・・。
本当の専門で研究歴もある学者は、ビジネス書でポジティブ心理などを解説するときにも、留意すべき条件をつけていたり注意しています。 ですが、それを読んで受け売りしている研修講師などでは、結果だけの利点を強調することになってしまっているのです。
【執筆:匠英一】